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情報的な何かと政治的な何か

エイモリー・ロビンスの『新しい火の創造』参照文献について

このエイモリー・ロビンスによる『新しい火の創造』という本では700を優に超える参考文献によって筆者の主張が裏付けられている。そしてその参考文献は本の文末ではなく、出版元のダイヤモンド社によって日本語の参照文献リストサイトによってまとめられている。

新しい火の創造

新しい火の創造

『新しい火の創造』参照文献

しかしながらこの参照文献サイト、使いづらいというか情報が不十分なのである。
例えばこのような形で参考文献が並んでいる。

73: Long et al. 2010.
74: Fickling 2011.
75: McCoy 2010.
76: Tibbits 2010.
77: Shirouzu 2010; Bradsher2010.

これでは論文を探し当てることが難しい。参照文献に載せる際は基本的にタイトル、筆者名、論文雑誌名、発表年度が最低限必要だ。同じ名前の別人の書いた論文を読んでしまったりしてしまうこともあるからだ。

日本語版では226頁で引用されている「261:Ulrich 2011.」という論文を、ロジャー・ウルリッヒという名前と病院に関する論文という情報から探してみた。

本文中にはこのような一文で書かれている。
226ページ「著名な行動科学者であるロジャー・ウルリッヒは、グリーンで効率の高い病院では、これまでの普通の病院に比べて、患者が早く回復し、気分が良く、入院期間が短く、再入院が少ないという内容を持つ2000を超える査読済みの論文を集めた。261」

この本文の内容と参照文献サイトに書かれている「261:Ulrich 2011.」という情報を組み合わせて元となった論文を探してみる。するとこのサイトを見つけることができた。

Publications by Roger S. Ulrich
Roger S. Ulrich: selected articles on evidence-based healthcare design:
http://www.chalmers.se/en/departments/arch/centres/Centre%20for%20Healthcare%20Architecture/Research/Pages/Literature-Roger-S.-Ulrich.aspx

このページでは代表的なウルリッヒ教授の論文がまとめられているようだが、2011年に発表された論文は見つけることができない。そこでグーグル・スカラーを用いてもう少しちゃんと調べてみると、それらしい論文を見つけることができた。

A Conceptual Framework for the Domain of Evidence-Based Design by Roger S. Ulrich, Leonard Berry, Xiaobo Quan, Janet Turner Parish :: SSRN

上記のページのアブストラクトには「物理的な設備がヘルスケアにおける治療のプロセスにおいて重要な役割を果たしている。」(The physical facilities in which healthcare services are performed play an important role in the healing process.)と書かれているので、本文中で引用されている 「261:Ulrich 2011.」という論文もおそらくこの論文を指している可能性が高い。

発表年は論文の論文が受け入れられた時期と掲載時期の差によって生まれたりすることで1年ほどずれてしまうことがあるが、今回は「Ulrich, R. S., Berry, L. L., Quan, X., and Parrish, J. (2010). A conceptual framework for the domain of evidence-based design. Health Environments Research and Design, 4(1): 95-114. https://www.herdjournal.com/article/conceptual-framework-domain-evidence-based-design」と書かれているので、やはり2010年の論文であると判断していいと思う。

すると、参照文献サイトに記載されていた「Ulrich 2011.」という情報ではこの論文にはたどり着くことができなかったのである。今回はたまたま2011年に発表した論文がなかったことから推測でその前後の論文に内容と合致する論文を探し当てることができたが、もし毎年論文を何本も発表するような学者であったばあいその特定はさらに難しくなる。

この本は研究所というよりも一般向けの啓発書であるからこうして参照文献をわざわざ探す人もそう多くないかもしれない。しかしながらだからといって参照文献をないがしろにしてしまっては、再生可能エネルギー推進派というのは適当な裏付けしか持っていないとみなされてしまうこともあるだろう。

せっかくエイモリー・ロビンス氏自身が参照文献のリストを作って持論を補強しているにもかかわらず全く使えないリストを用意してしまっては意味が無い。ダイヤモンド社は即急に参照文献サイトをより正確な情報に更新するべきだろう。