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情報的な何かと政治的な何か

中国学術界・大学のコピペチェック事情

昨年は小保方氏の博士論文において引用の明記なしでコピー・ペースト(剽窃)されていたことが大きな問題となった。
そして芋づる式に多くの研究者が行っていた論文のコピー・ペーストが暴かれた。
こうした論文を通過させてしまった大学は果たしてどれほど正当なチェックを行っているのかという疑念を抱かせる大きな事件となった。

STAP細胞の話は置いておくとして、学術における剽窃は何も今に始まったことではない長年の問題である。
ここで私自身中国の大学とも関わりを持つ身として中国の剽窃事情をお話したい。

あらゆるコピー問題があふれる中国

中国といえば知的財産権無視のコピー製品や違法アップロードされた動画など、コピー問題が山積みの国というイメージが強い。
中国政府は目下偽ブランド品の撤去や摘発、知的財産権の強化など対策を講じているものの問題は非常に根深く今なお法律をかいくぐって行われている。

学術界においても剽窃はかなり行われているのが実態で、2009年だけでも北京大学人民病院の医師や南開大学教授、中国の学会で最高位である中国科学院院士が関わった剽窃事件など次々に判明している。
最も酷いものは大学の場所を江苏から山東にかえただけという修士論文が提出されたという。
これらはあくまで判明した事件の一部で実際は数えきれないほどの剽窃が行われていと見ていいだろう。

実は厳しい中国のコピー・ペースト事情

こうした目を覆うような実態が次々に明らかになる中で、中国の学術界も対策を講じ始めている。
その1つがコピペチェックである。
現在、中国の大学の卒業論文には必ず「查重」というコピペチェックの検査が義務付けられている。
卒業前の卒論発表会(中国では答辩と言う)での発表資格としてこのコピペチェックが10%以下である必要がある。
また卒業前に論文を図書館に納める前にもこのコピペチェックが行われ、一般的には重複率を5%以下まで減らすことが求められる。
小保方氏は引用を明記せず、さらにどう見ても70%は同じ文章と思われるコピーを行っていたが、このツールでは引用を明記している論文を含めた重複率と明記していない論文の重複率が自動的に判定できる。
よって引用の明記している文献を含めた重複率は20%未満、引用の明記をしていない文献の重複率は5%未満といった基準を設けて審査することができるのだ。

国学術界のコピペチェックツール

この查重を行うシステムは主に論文データベースを運営している企業が提供している。
中国国内には「知网」、「PaperRater」、「万方」、「Gocheck」など複数のコピペチェックツール存在するが、
中国で最も使われているのは「知网」である。
この知网は中国最大の論文データベース「中国知网」をベースに作られているコピペチェックシステムで、
中国全土のあらゆる論文雑誌や修士・博士論文、データなどを網羅すしている。
「知网」が提供するコピペチェックシステムはより精度の高い判定を行えるよう、データベースの量だけでなく判定精度も極めて高いものが採用されている。
そのため現在では中国国内の大学のほぼすべてがこのシステムを使ってチェックを行っている。

「万方」や「PaperRater」は検査できるデータベースが重要な論文データベースのみに限られているため、
学生が使う論文提出前の簡単なコピペチェックとして使われることが多い。
他にも前者は中国語のみ対応、後者は英語論文にも対応など細かい違いがあるため、
必要に応じて様々なツールが使えることも中国の特徴である。

知网5.0と知网PMLCの違い

一般的に用いられているチェックシステムは知网5.0と呼ばれるものである。
しかし大学の卒業・修了論文に特有の問題を解決するために知网PMLCというシステムも作られている。
この2つの種類の大きな違いは「大学生论文联合比对库」が含まれているか否かである。
論文のコピー・ペーストは往々にして大学の卒業論文や修了論文において行われるが、
公開されている論文をコピペするならまだしも、卒論レベルの文章の使い回しは非常に見分けることが困難である。
こうした大学で起こりがちなコピー・ペーストをチェックするシステムが知网PMLCである。
大学は卒業論文の電子版の提出を義務付け、「知网PMLC大学生论文管理系统」に登録する。
大学生论文联合比对库が含まれていることで学位論文で発生しやすいこうした問題を回避する事ができるのである。
そのため多くの大学では学位論文の審査において知网PMLCが採用されている。

これらのツールは学生も使える?

これらのコピペチェックツールは主に大学側が卒業認定や学術雑誌の投稿論文に使うものだが、
一般の研究者や学生もこうしたシステムを有料で使うことができる。
実際に中国最大のショッピングサイト淘宝網などでは様々なコピペチェックツールが販売されている。
これらはそのほとんどが大学が用いるシステムと全く同じものを採用しているため、
卒業前の学生らが提出前に自らの論文の重複率を確認するために使うことができるのだ。

自らが執筆した論文の最終チェックとして用いるならまだしも、
多くの学生はコピー・ペーストした文章をいかに、チェックに引っかからなくするかに力を注いでいる。
つまり、単語を言い換えたり文章の構造を変えることによってコピペと認定されることを回避するのだ。
また、こうした言葉の言い換えを代理で行う業者も存在しているため、コピペチェックツールの導入によってコピペを防ぐことはできても、学術的に意味のある教育ができるかと言えば効果は薄いかもしれない。

コピペチェックをすることは世界では当たり前?

中国ではコピペチェックが盛んに行われていることを紹介したが、こうしたコピペチェックツールの活用は他の国でも普通のことになっている。
アメリカのとある大学では卒業論文ではなくてもレポート1つに至るまでコピペを判定するシステムが使われているそうだ。
そうなると日本のチェックシステムはまだまだ不十分であると感じる。これまで日本の大学教育は性善説を前提として学習する意思あるものに教育を施すという方針で教育を行っていたフシがある。
しかしながら大学全入時代になり徐々に学習意欲の高い学生が減ったことや、大学とはそういうものだという前提で過ごす者が増えるとこうした性善説のシステムは成り立たなくなる。
そうすれば、せめて「人のものを剽窃しない」とか「論理的な文章構造をつくる」といった基本的な倫理や考え方くらいは身につけて卒業させるためにある程度、そうした意識付けができるシステムを導入することは1ついいことかもしれない。