being qua being

情報的な何かと政治的な何か

学び直したいと思った時に気になる学際系大学院

学部時代に元々理工学系の研究をしていたという人は企業でも研究職として博士号を活かせるとかいったことが多く、母校の先生が快く受け入れてくれることがあるが、人文社会科学系の卒業生や理工学系ではあったが、社会科学系に関心が生まれたという人にとってはそういった個人の目的意識に答えることのできる大学院を探すのは難しい。

これからの将来のことを考えるとほとんどの仕事は低賃金労働者に取って代わられ、コンピューターに代替されることが予想されている。そうした世界で生き残るためには、理工学系のプロフェッショナルとして研究力や技術力を磨くことで価値を高めるか、コンピューターを使う側、もしくはコンピューターにはできない高度なマネジメント力を活かして、新しい価値を創りだす側に回らなければならない。

そう考えれば学ぶべきモノは専門分化されたいわゆる学問ではなく、総合的に問題を発見し解決策を考える訓練ができる教育を受けることである。もちろん。大学院で学ばなければならないことばかりではないが、一度自分自身を考えなおし将来のキャリアを考える期間として大学院進学を目指すことはそこまで意味ないことではないと思う。そこで今回は、母校の宣伝も兼ねてこうした社会問題を目の前にして大学という場から解決法を研究している大学院を紹介する。

京都大学大学院 総合生存学館(思修館)

http://www.sals.kyoto-u.ac.jp/

専攻は「総合生存学」一専攻のみ。複雑な社会システムの課題に対して、持続可能で創発力のある社会システムを構築するためにリーダーシップを発揮できる人材の育成を行うことを目標に掲げている。この専攻の特徴はやはり「全寮制・修士博士一貫課程」という日本で唯一のカリキュラムをとっているところにある。

社会人から一念発起して5年間の学生生活を行うには相当の覚悟がいるが、世界の様々な問題に対して一生をかけて取り組みたいと考え、取り組みたい心から思う人にそれに没頭する環境は用意されている。特に活躍の舞台は日本だけではないと感じている人にとって幅広く、そして深く思考を掘り下げる訓練をする5年間が過ごせるだろう。

キーワード 国際アナリスト アントレプレナー ビッグデータ 歴史遺産活用専門家 食料・エネルギー・環境政策実務家 5年制大学院 グローバルリーダー

東京工業大学大学院 社会理工学研究科

http://www.dst.titech.ac.jp/

日本が誇る理系・エンジニアの巣窟、日本のマサチューセッツ工科大学とも呼ばれる東京工業大学にもこんな学際系大学院があったのかと驚く人は多いはずだ。しかしながらあの思想家、吉本隆明を輩出し、人文学系科目の教壇にはかつては川喜田二郎江藤淳といった大御所、近年では東浩紀池上彰、パックンまで個性豊かな教師陣が教鞭をとるという意外と人文社会科学系にも深い関わりがある大学である。

研究科内には4専攻あるがどの専攻もやはり「数理的な思考」を中心に据え、人間科学、経営・経済・社会工学環境政策・システムマネジメントなど幅広く学際的分野における教育を行っているところが特徴的である。規模は決して大きくないが研究内容で独自色を出している専攻もあり、自らの研究方針にあった研究室があれば面白い大学院だろう。

キーワード: 認知科学 人間科学 教育工学 文理融合 意思決定 社会モデリング システムマネジメント 経営システム工学 数理計画法 数理ファイナンス マーケティング 科学技術と社会 ゲーム理論

東京大学大学院 情報学環・学際情報学府

http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/

東大の学際領域における研究組織といえばここだろう。ホームページには「情報をめぐる諸領域を流動的に連携させるネットワーク組織」と書かれているが、研究領域は慶応のSFCと似ている。社会情報学や文化・人間情報、メディアアートやロボットインターフェイスまで扱う東大のSFCと言える組織である。

大人の学びを科学する中原淳准教授や作曲家でもある伊東乾准教授などリサーチフィールドの広さは本家SFCと比肩するし、同じように社会科学系の研究コースも用意されており、聖学院大学姜尚中教授(現在は転籍)や国際政治学者の田中明彦教授などに指導を受けることができる。

キーワードユビキタス 科学技術と社会 認知科学 スマートな環境情報 ビジネスエコシステム 教育科学 空間イメージの創造 バーチャルリアリティ コンピューターグラフィックス 

慶応義塾大学 政策・メディア研究科

http://www.sfc.keio.ac.jp/gsmg/

なんといってもおそらく学際的・分野横断型研究の日本のメッカとなっているであろう政策・メディア研究科。SFCという呼称で有名だが外側から見ても断然面白そうな研究室が集まっている。教授たちの研究インパクトに釣られてか、全国から熱狂的なSFC志望の学生を惹きつける独特の雰囲気が「よくわからないけど面白そうな大学」を作り上げている。

地域研究から政策研究、経済学といった学際系な社会科学分野の研究では多くの研究者が在籍しており、これまでの4大学では最大規模である。認知科学、心理学分野においても20人以上の研究者が在籍しているし、環境情報学部があることから、コンピューター・サイエンス分野およびコミュニケーションに関する研究も盛んである。それぞれの人の興味関心によると思うが、個人的にはやはりSFCというのはなんだかわからないけどおもしろそうと感じる魅力的な研究場所のように感じる。

キーワードインタラクティブメディア デザイン ユビキタス コンピューターグラフィックス 情報セキュリティ 分散システム 計算機科学 ゲノム工学 国際関係論 グローバル・ガバナンス ヒューマンセキュリティー 合意形成 政策分析


これらの大学院は直接的にキャリアアップに貢献する学位が取れるわけではない。直接今携わっている仕事に関係する勉強をしたいと思えば、MBAMPA(公共政策修士)といった専門職課程に進学するのもひとつの手であるが、日本においてこれらの専門職課程はあまり重要であるとはみなされていないようである。

MBAが高く評価されるアメリカでも近年ではMFA(マスター・オブ・ファインアート、芸術学修士)が注目され始めている*1この記事はすこしばかり大げさであるとしても、本来、企業のリーダーを育成したり、起業家を生み出すことが目的であったMBAがいつの間にか「MBA型養成機関」になっていることへの反省はあり、独創性の高いアイデアを社会に訴える芸術から学ぶべき部分は確かにあるだろう。

誰にも今一度自分がどうなりたいのか立ち止まってみた時に、学びたいことはきっとあるはずである。そんなときに日本にも学際的な面白い大学院があることを思い出してくれれば、役に立つ時が来るかもしれない。

*1:The MFA Is the New MBA - Katherine Bell - Harvard Business Review http://blogs.hbr.org/2008/04/the-mfa-is-the-new-mba/