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地方公務員になったからには、スーパー公務員を目指そう!

 気多大社 - 石川県羽咋市寺家町ク
気多大社 - 石川県羽咋市寺家町ク / mossygajud

先日、スーパー公務員として有名な、羽咋市(はくいし)農林水産課の高野誠鮮氏の講義を聞いてきた。羽咋市神子原地区は超過疎の地域であるが、高野氏の働きかけをきっかけに、オリジナルブランドを作り出し全国で農産物を販売している。また、この地区で伝統的に行われていた、自然栽培の成果は2011年6月17日に国連食糧農業機関(FAO)の認定する「世界農業遺産」に認定された。

地域再生の試み、羽咋市神子原地区の事例

羽咋市の使命は農薬・肥料・除草剤を一切使用しない「自然栽培」を能登に拡大し4市4町で実施することで、現在3市3町の農家が実施しています。

能登はやさしや土までも」これは古くから、言い伝えられている能登を象徴する表現です。環境保全耕作放棄地の活用、安心安全な食材を提供する先進国としてのシステムを構築し、トキの最終生息地である能登半島でトキ舞う空の復活を目指します*1

この話の元となるのは、これまで高野氏が一公務員として取り組んできた過疎地域再生の試みであるが、まず高野氏は私達にこう問いかけた。

 

「過疎を解決するために得た市の予算60万円の予算で何をする?」

 

予算としての60万円がかなり少ない事は誰の目にも明らかだろう。しかも、羽咋市神子原地区は18年間も新生児が生まれていない超過疎の地区である。そこに住むお年寄り達はもはやこの地域が衰退して消えて行くしかないことを見守るほかなかった。

予算増額など申請しても降りるわけがない。そこで高野氏は片っ端から地域再生のための補助金に申請した。そしてその補助金を元手に様々な政策を打ち出した。その一つが「神子原米」というブランド米。ブランドというのは単においしいだけで付くものではない。

「誰が食べていたらブランドになるのか」を考え、最初は天皇や、米国ことアメリカのブッシュ大統領に献上しようと考えたが、その交渉の最中、同時に交渉していたローマ法王から献上を受け入れるという事になった。これは神子原という名前から神の子の原、神に一番近いローマ法王ということになったからだそうだ。

この成果もあってローマ法王を崇拝する日本のキリスト教徒の方々から「ローマ法王と同じお米が欲しい」という注文を受けることになり、知名度は一気に高まったそうだ。

 

もう一つの特産品がこのお米を使った超高級日本酒「客人」(まれびと)720ml、33600円だ。高野氏は「日本酒をブランド化するためにはどうすれば良いのか」考えた結果、外国人記者クラブに持っていった。そこで外国人記者16人の記者に飲ませたところ彼らは「まるでワインのようだ」と言った。

外国人にとっては高級酒といえばワインをイメージする。実は彼らの表現はあながち間違いではない。この日本酒、実は麹ではなくワイン酵母を使っている。つまりワインでもあるのだ。彼らのスタンダードワインに合わせることで、ロマネ・コンティのような高級感を出すことに成功した。これが評判が評判を呼び、全日空のエグゼクティブクラスの日本酒にまで採用された。

このような過疎地域は日本全国に山ほどある。山ほどありすぎて話題にもならない。「そんな山奥の地区には何の意味もない。平地に降りてきて暮らせばいい」というような害虫駆除的な政策を取る地方自治体も多い。しかし高野氏はこう述べている「やせ細った足はリハビリする。切るのではない。」と。

 

高野氏は公務員について次の3通りに分けることができると仰っている。

「いてもいなくてもいい公務員、役所の職員ですね、いては困る職員、いなくてはならない職員、選択肢は自分にあるということです。そして職員というのはこれは民間のアントレプレナー精神を全く持っていません。もらっている給料の3倍以上働かないと会社がつぶれるということを分かっていないのです。これがないと普通は倒れるのです。*2

私にとってもイメージが湧く公務員像であるし、いなくてはならない公務員が本当に少ないこともよく知っている。いなくてはならない公務員などいて当たり前なはずなのに、誰もそうなろうとはしない。だから正直言うとやるべきことをやっているだけの高野氏を「スーパー公務員」といってもてはやすのもどうかと思ったりする。

私は高野氏の話を聞くまで「スーパー公務員」という言葉を私は知らなかったのだが、どうやら調べてみると2年くらい前にすこし流行ったらしい。しかし、こうした公務員主導のまちおこしに批判的な意見もある。

行政主導のまちづくりまちおこしとは、まちづくりを仕掛け、うねりを起こすだけ起こしておいて、提案した公務員は結果を引き受けない無責任極まりないシステムだからだ。*3*4

確かに「やるだけやっておいて、失敗したら知らんぷり」こういう人が同じことを真似しようとしたら、大変なことになる。だがこうした活動に対して「公務員は結果を引き受けないから無責任ですべきでない」と論じるのはおかしな話だ。

地方公務員は地域のために働かなくてはならない。その仕事が町おこしや地域活性化、過疎地域の支援であるならば当然裁量の範囲内でできる限りのことに挑戦すべきだ。前述の通り、高野氏は予算60万円を与えられたが、実際にその予算でできることは殆どなかった。そこで、国などの支援を自ら取りに行ったのだ。

主体的に業務を遂行するためにはそれが必要だったからだ。目的を達成するために必要な方法を公務員の裁量の範囲内で行ったのだからこれについて誰も批判できないだろう。

地域再生の事業は地域の代表者と公務員が協力して行わなければならない。なぜならこの分野こそ行政が行うべきだからだ。民間企業にとって過疎地域の再生などうま味がない。行政がすべきだと論じるのはシンプルに「そこに人が住んでいるから」である。

過疎地域を切り捨ててしまうのは効率的な資源配分の視点から言えば全くもって妥当である。老人ばかりの過疎地域には経済的な価値がない。すべて都市に集積した産業で効率的に生産を行ったほうがいいからだ。わざわざ数件しか住んでいない山奥まで水道、ガス、電話、道路、医療サービスを提供するのは大変なことである。

しかし、人がいる限り必要なのだ。そういった市場効率的なシステムからは見向きもされない地方だからこそ、公務員が地域の人々や企業を巻き込んで再生する必要がある。

 

スーパー公務員というと「公務員が町おこしをした」というニュアンスに聞こえるがそうではない。公務員はあくまでも地域住民のサポート役であり、実際にコメを作ったり酒を作ったりしているのではない。公務員のコスト意識のなさ、責任感のなさが無駄な予算となって、本来コンサルなどが行うべき民間企業の仕事を阻害しているとの意見もあるが、それはかなり大雑把な議論である。

与えられた業務が「地域活性化」ならば、予算をどう消化するかではなく、どうすれば地域活性化につながるかを考えなければならない。そのために必要な資金は作り、多くの人の協力を得て、もっとも効果的に目的を達成する方法を実行するのが公務員である。そこに無駄な予算は生まれようがない。必要ならコンサルを雇えばいいのだ。

町おこしは、「公務員が発起人となって周りに人を集めることで、本来なら民間企業に町おこしを頼むことすらできなかった、その無力感に溢れている地域住民を一つにして、その地域が抱えている問題を話し合い、必要であればその問題にたいして適切な回答を導くことのできる民間コンサルの力を借りて、地域を再生させていく」ことである。

その意味で、高野氏は地方公務員としてやるべき事をやったまでである。JAを通してただの「石川県産コシヒカリ」として売るよりも、少しでも農家の収入が増えるのであれば「神子原米」として売った方が、生産者にとっても消費者にとってもパレート効率的なのだ。小樽をガラスの街として全国的に売りだしたことによってブランド化できたのであれば、ただの廃れた漁港であった小樽が住民と観光客どちらにとっても魅力的になったならパレート効率的なのである。

 

公共政策が難しいのは、その地域をミクロ的に見た効率性(羽咋市小樽市の事例)が日本全国のマクロ的に見た効率性(価値のない地域より発展している都市に注力すべき)とは一致しないことである。

ただ、地方公務員としてすべきことを実行したことに対して、これだけ話題になるという事自体が、いかに日常的に地方公務員が本来すべき業務を遂行できていないかを物語っているように思う。

こうした事例を通して、「私達の地域ではこんなことができるのではないか?」と考え、そして実行するためのエネルギーを注ぐ、そして地域に味方をたくさん作る。こうした活動ができる地方公務員が今以上に増えれば、ゆるキャラブームが過ぎ去るであろう近い将来、その先の将来も住民にとって住みやすい環境を維持していけるだろう。

*1: 世界重要農業遺産システム(GIAHS)認定|お知らせ|羽咋市 http://www.city.hakui.ishikawa.jp/sypher/www/info/detail.jsp?id=3431

*2:(財)日本特産農産物協会 地産地消優良活動表彰09年 http://www.jsapa.or.jp/chisan/hyosyo09/PDF/06-4.pdf

*3:反「スーパー公務員」論 - 若年寄の遺言 http://blog.goo.ne.jp/rakusui1598/e/99285dba3d992512cc881bbbe1e9d165

*4:「スーパー公務員」になれなくても: 公務員のためいき http://otsu.cocolog-nifty.com/tameiki/2009/07/post-e3a8.html