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情報的な何かと政治的な何か

Ⅳ-中国の都市農村格差−農民工にスポットを当てる

現在の中国が抱える問題の一つが増え続ける農民工だ。彼らは内陸部の貧しい農村から都市へ、日雇い労働を守るためにやってくる。13億人を超える人口の12人に1人がこの農民工であるという統計データも出ている。

実はこの問題は経済発展著しいここ数十年の間に起こった現象ではない。都市の治安の悪化、食糧不足を心配した中国政府は1958年から78年の間人口移動政策により、都市への農民の流入を防ぎ続けた。

中国には戸籍制度というものがあり、農村で生まれた人は農村戸籍というものを与えられ基本的には一生その地に縛り付けられる。その逆が都市戸籍だ。例外として大学への進学者が都市の戸籍を与えられる。(1958年、中華人民共和国戸口登記条例)


しかし78年から現在において有名な訒小平の「先富論」以降、人口移動抑制政策は後退し、都市での労働力を補うために農村部から安い賃金で雇われる農民が再び増加した。以来平均500万人を超える農民が都市へ流入し続けている。

戸籍制度に関しては改革する必要がある。なぜなら教育・就職・医療・社会保障の面で都市と農民の区別が難しくなり、戸籍制度によってそのようなものを受けられない人が増えると都市のスラム化、治安悪化に繋がる可能性があるからだ。最近になって、政府はようやく重い腰を上げ公安部において戸籍移動制限緩和について検討し始めた。


『不平等国家中国』を著した園田氏によると、都市へやってくる農民の目的は経済的動機が77%であることが分かったという。また、就職の経路は知人の紹介、親戚の紹介、自分で探したという農民が90%を超える。

この2点から考察すると、未だに都市で肉体労働に従事して稼ぐ賃金が、農村で農作物を育てるよりもよっぽど大きなお金になるという現状がある。また、私的なルートを介して働き口を見つけているため、政府の管理が及ばない違法流入者がほとんどであり、彼らは都市で教育や医療が受けられないという問題点が明らかになる。


彼らは都市の住民より国家や政府に対する期待が低く自らに頼る傾向があるということも言えるだろう。だから、社会保障が受けられない彼らは都市の住民と比べて圧倒的に不利で貧しい生活を強いられるが、生活に対する不満があるのかというと必ずしもそうではないらしい。

しかし、長期にわたって労働をし家庭を持つ農民工は教育や医療が受けられないということに不満を抱いてくるのである。農村よりまともな生活を送っている都市に住む農民は都市住民と同じ待遇を要求し始める。また、都市住民の低所得者農民工に仕事が奪われる可能性があるので彼らとの間に摩擦が起こる可能性もある。高所得者はスラムの恐怖から農民工の流入を警戒している。



農民工は都市住民にとっては嫌われ者であるが、都市の経済発展の為に必要な存在でもある。賃金の安い彼らを使っているのは都市に住む経営者や国営企業なのだ。政府は彼らを強制的に都市から追い出すことによって経済の停滞を招くことを知っている。

つまり、戸籍制度の改革は必須だと政府は分かっているが、都市への農民の流入をさらに加速させてしまっては、インフラも満足に整わない都市部ではかなりの可能性でスラム化、治安悪化、環境汚染が発生する。

だから、政府は戸籍制度の緩和よりも、格差是正のために農村部の生活を都市のそれに近いものへ引き上げることに力を入れている。農業補助金政策だけではなく、効率的な近代農業の技術提供や、内陸部のインフラ整備による企業の誘致によって雇用を増やすことが課題となっており、これらを優先していることが分かる。

不平等国家 中国―自己否定した社会主義のゆくえ (中公新書) ><@参考文献